大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成10年(行ツ)199号 判決

上告人選定当事者

山田秀夫

外二名

選定者

山田秀夫

外一四名

被上告人

東京都選挙管理委員会

右代表者委員長

新井一男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由について

民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その実質は原判決に公職選挙法二七一条二項、一五条二項、八項の解釈の誤りがあることを主張するものであって、民訴法三一二条一項及び二項に規定する事由に該当しない。

なお、原審の適法に確定したところによれば、東京都議会は、平成九年七月六日施行の東京都議会議員の選挙(以下「本件選挙」という。)に先立ち、同八年六月二六日、最近の国勢調査である同七年一〇月実施の国勢調査による人口に基づき、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例」という。)の一部改正(以下「本件改正」という。)をしたが、右国勢調査結果に基づく千代田区選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)は0.375であって、東京都議会は、本件改正に当たり、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担っている独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての議員の必要性等を考慮して、これを公職選挙法二七一条二項に基づくいわゆる特例選挙区として存置することにしたというのである。千代田区選挙区の右配当基数はいまだ特例選挙区の設置が許されない程度には至っておらず、他に、東京都議会が、本件改正後の本件条例において千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。したがって、同議会が同選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができるから、本件改正後の本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。

そして、原審の適法に確定したところによれば、右国勢調査による人口に基づく特例選挙区を除いたその他の選挙区間における議員一人当たりの人口の最大較差は1対2.15、特例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は1対3.95であって、いわゆる逆転現象は二〇通りあるが、定数二人の顕著な逆転現象は二通りのみであり、右国勢調査による人口に基づく各選挙区の配当基数に応じて定数を配分した人口比定数(公職選挙法一五条八項本文の人口比例原則に基づいて配分した定数)による議員一人当たりの人口の右最大較差は、特例選挙区を除くその他の選挙区間においても、特例選挙区とその他の選挙区間においても、本件条例の下における右の較差と同一の値となるというのである。公職選挙法が定める都道府県議会の議員の選挙制度の下においては、本件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は、公職選挙法一五条八項に違反するものではなく、適法というべきである。

よって、裁判官福田博の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官福田博の反対意見は、次のとおりである。

一  我が国憲法は、地方公共団体の組織に関する事項を法律で定めること及び議会の議員は当該地方公共団体の住民が直接選挙すること等を定めている(憲法九二条、九三条)が、ここに定める住民による直接選挙における投票の価値については、憲法一四条に定める法の下の平等が国会議員の場合と同様に要請されるのであって、有権者が当該地方公共団体の区域内のどこに住んでいるかによって投票価値に差異を設けることは本来想定されておらず、この点については常に厳格に判断することが必要である。近代民主主義国家における代表民主制(我が国憲法の定める代表民主制もその一つである。)にあっては、投票を通じて代表を選出する機会はそれぞれの有権者に平等に与えられなければならないのであって、この点こそが代表民主制を機能させていく上で最も重要な原則である。

もちろん現実に一人一票の原則を貫徹することが困難であること(特に地方議会については、公共の利益のためその例外を認めることが必要な場合があろう。)から、選挙制度の決定に当たり地方議会にある程度の裁量の余地が与えられているのが通例であるが、その裁量はあくまでも技術的なものの範囲にあることが原則である。地方議会にあって、その地方内の一部地域特有の問題に対応するために、当該一部地域の住民に代表を選出する権利を与えることが、その地方全体の公共の利益に資すると認められる場合(ある地域に特有の又は利害が特に密接な問題について議決を行うような場合が例として考えられよう。)にあっても、投票価値の平等が憲法の要求する基本原則であることには何ら変わりがないのであって、具体的にどのような例外が認められるかは、結局のところ個別の事例ごとに種々の要素を総合的に考慮して判断することが必要であるとはいえ、例外を認めるべき裁量の幅は極めて限られたものである。

公職選挙法は、都道府県の議会の議員の選挙区を、郡市の区域を単位とすることを原則としつつも(一五条一項)、配当基数が0.5未満の選挙区については、これを隣接する他の選挙区と合区すること(同条二項)、さらに、配当基数が0.5以上であっても一に満たない選挙区についても、任意合区が認められること(同条三項)を原則として規定している。これらの規定は、憲法の規定を受けて各選挙区を通じて選挙人の投票価値の平等をできる限り実現することを目的としたものと考えられるのであって、そもそも配当基数0.5を強制的な合区の基準とすることが適切かどうかの点を別としても、選挙区を合区するかどうかを決するに当たっては、当該選挙区の配当基数の数値が重要かつ基本的な要素となることを定めているということができよう。したがって、平成七年の国勢調査の結果によれば千代田区選挙区の配当基数が0.375となったにもかかわらず、平成八年改正の本件条例が、東京都議会議員の総定数については従前とほぼ同一の水準を保ちながら、公職選挙法二七一条二項に基づき、千代田区に対し引き続き特例選挙区として一の議席を認めたことが適法か否かは、同法の各規定及び憲法一四条に規定する投票価値の平等を損なうものとならないかの観点から慎重に見極めることが必要となる。

二  右原則に立てば、まず、地方議会議員の選挙にあって基本となる単一選挙区に少なくとも一人の議員を選出することを認めるべき事情がある場合には、投票価値の平等を確保するため、当該地方議会の議員の総定数を増加することにより他の選挙区の投票価値の平等を確保することが考えられる。しかし、法律(地方自治法九〇条二項)によれば、東京都議会の議員の総定数が既にほぼ限界に達しており、このような方法で千代田区を特例選挙区として存続させることはできない。

次に、東京都の特別区部において昼間人口が夜間人口に比し最も多いのは千代田区である(平成七年の国勢調査によれば常住人口の二七倍にあたる九五万人が昼間人口である。)ことを根拠として千代田区を特例選挙区として議席を引き続き認めることが考えられる。千代田区における定住人口の減少は、国政の中心地であることや職住近接その他に基づく各種利便と公租公課等居住に係る経費、住民サービスの内容等とを比較し、他の地域を住居地とすることを選好する者が増え、しかも、職業上、昼間は都心に通勤しなければならない者が増えたことを示しており、そのこと自体は理解できない部分がないわけではないが、憲法に定める住民とはその選挙区に住所を有する有権者であることはあまりに明らかである上、隣接する中央区(平成七年の国勢調査によれば昼間人口は常住人口の約一一倍)、港区(同約5.9倍)等も程度の差こそあれ同一の状況にあるのであり、右のような理由による裁量が認められる余地は極めて小さいものというべきである。

さらに、千代田区が国政の中心地であることを特例選挙区として認める理由にしようとする向きもあるが、東京都の特別区制が設けられて以降、千代田区は常に国政の中心地であったのであって、そのことで当初から特別扱いされてきたわけではなく、いずれにせよ、投票価値の平等という基本原則から大幅なかい離を認める根拠とはなりえない。

三  次に、公職選挙法が、配当基数が0.5を下回るときは原則として合区をすることとしているのをどのように考えるべきか検討する。

都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分に関する現行法の定めからすれば、配当基数0.5は、衆議院議員又は参議院議員選挙の際問題とされる選挙区間における議員一人当たりの人口の較差に換算すれば、現実に最大一対三を超える較差の存在を認める数字に相当する。

投票価値の平等は憲法に定める代表民主制を担保する最も重要な原則であって、実務上不可避に生ずる偏差以外には各有権者の投票の価値は可能な限り一対一に近づけるべきであり、差異が認められるときでも国会ないし地方議会の裁量の余地は極めて限られているというのが私の考えであるから、配当基数が0.5を下回るという状態は、通常にあっては、もはや看過し難い程度にまで投票価値の平等が損なわれている場合に当たり、公職選挙法一五条二項に基づき当然に合区を行うべきものである。同法二七一条二項も基本的にこのような前提に立っているからこそ、右の合区の義務を猶予するための特例を法文上明記したものであって、急激な人口異動など過渡的状態に対応する必要な時間に限って緩和措置を認める趣旨の規定であると解される。したがって、同項は長期にわたり是正措置を講じないことを認めているわけではなく、憲法の定める投票価値の平等に照らせば、強制合区の例外が認められる極端な場合にも、過渡的な激変緩和措置として当該選挙区の存置を一回限り認めるといった理由にしかなりえない(そもそも同項が昭和四一年現在の選挙区についてそのような特例を例外として認める理由は明らかでない。)。

ちなみに、若干の外国の例を見れば、米国連邦最高裁は、連邦議会下院議員選挙については、極めて厳格に一人一票の原則を追求するのに比して、地方議会については、その特殊性等を考慮してより柔軟に偏差の発生の余地を認めている。しかし、いくつかの判例を通じて見れば、偏差が大体一〇パーセントを超えないことを基準としているようであり(連邦最高裁ブラウン対トムソン事件一九八三年六月二二日判決・判例集四六二号八三五頁等)、これを超える偏差を認める例はわずかで、かつ、若干の幅にとどまっている。また、フランス憲法院は、従来から、選挙権の平等を確保するためには議決機関の議席の配分は人口比例を基本として行わなければならない旨判示しており、都市計画等に関する一定の事務を処理するため複数の市町村を構成員として設立される特別地方公共団体における議決機関の議席の当該市町村への割当てについても、当該議席の配分は各市町村の人口に比例して割り当てられなければならないとした上で、小さな市町村にも最低一人の議席を配分するものとした法律の規定の合憲性につき、そのような配分方法も一定限度で公益にかなうものであるところ、立法者は併せて総議席数を増加の上その余の議席を大きな市町村に配分するものとしているのであり、これを全体としてみれば、各市町村への最低一議席配分という考慮は人口比例による議席配分の原則と対比して極めて限定されたものとなっているなどとして、当該法律の規定を合憲と判断している(憲法院一九九五年一月二六日判決九四―三五八DC四八節及び四九節)。

要するに、これらの諸国の例に徴しても、配当基数0.5は、投票価値の平等の観点からみて既に十分に緩やかな基準というべきであり、それを更に緩和する地方議会の裁量の幅はほとんど無いというべきである。公職選挙法一五条三項は、一方で配当基数0.5以上までは独立の選挙区の設定を否定しないという十分に緩やかな基準を法律上定めつつ、同時に配当基数が0.5以上1.0未満の場合には任意合区が積極的に推進されることを予定し期待していたと解釈するのが妥当であり、かくして憲法一四条の要請との調和を図ったものと考える。私は、配当基数0.5ないしそれを下回る選挙区を定めることは、ほとんどの場合、そもそも憲法で許される裁量の幅を既に超えているのではないかとの疑念を強く持つが、配当基数0.5を下回る選挙区を定めることが許される場合があるとの立場を採る場合であっても、それは特段の事情に基づく極めて例外的かつ暫定的な場合にのみその可否が検討されるべきもので(さもなくば適用違憲の問題を生ずる。)、憲法一四条の要請との抵触を避けるためには、公職選挙法二七一条二項による例外は、特に十分な必要性及び合理性がある場合に限り認められるものと解すべきである。本件条例が、千代田区について、その配当基数が0.375であるにもかかわらず、十分な必要性の証明がなく、また、存置の期限も定めずに、特例選挙区として一議席を認め、その結果最大較差1対3.95という大きな偏差を認めたことは、代表民主制で貫徹されるべき投票価値の平等原則を大きく損うものであって、東京都議会に与えられた合理的裁量の限界を明らかに超えており、違法と断ずべきものである。

国政選挙であれ、地方選挙であれ、投票価値の平等原則からのかい離は、本来認められる余地は小さく、裁量による例外もあくまで極めて限定的にかつ時限的に認められるべきものである。さもなくば、結局のところ例外の積み重ね又は是正の遅れを生じさせ、そのような選挙によって選ばれたものがその裁量によって選ぶもの(有権者)の投票の価値の軽重を決定することになる。それはとりもなおさず現状の固定化又は現職者優位の制度を維持することにつながるのであり、司法がそのような裁量を認めることは、我が国憲法の定める代表民主制の基礎を揺るがすと私は考える。

四  以上のとおり、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は違法であり、これを適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があって、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、原判決は変更を免れないが、いわゆる事情判決の法理により、本件請求を棄却した上で、足立区選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言するのが相当である。

(裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判長裁判官根岸重治は、退官のため署名押印することができない。裁判官河合伸一)

上告人らの上告理由

一、原判決の代表概念の誤りについて

上告人らは、都議会が千代田区選挙区を特例選挙区として存置した理由が「地域の代表」を確保するという考え方にあった点に関し、それが、都議会議員は「全都民の代表」であるという正しい代表概念に反することを指摘して、千代田区を特例選挙区として存置したことが無効である旨主張した。

しかるに、原判決は、「地域代表としての議員の必要性」を肯定し、上告人らの主張を斥けた(『判決書』一九〜二一頁)。

原判決の代表の考え方は、憲法論として、以下に述べるとおり誤りである。

国会議員が全国民を代表する(憲法四三条一項)のと同様に、都議会議員は全都民の代表であって、各区民の代表ではない(昭和五八年七月二五日東京高裁判決[判例時報一〇八五号二六頁])。

被上告人は、上記の憲法四三条一項を引用した後、それに続けて「議員が地域の代表であるというためには、議員が選出選挙区の指図に法的に拘束される(命令的委任)など、選出選挙区の選挙民の意思を代弁すべき法的責務を課されていると認められる場合を意味するものであり」という(原審における被上告人『準備書面(二)』一〜二頁)。

議員の代表というものが、被上告人の言うとおりであれば、全国民の代表としての国会議員は、全国民の指図に法的に拘束されることになるが、憲法四三条一項の規定がそうした国民から国会議員に対する命令的委任の関係ではなく、国会議員は、自己の良心に従って自由に行動できることは憲法の理解として常識である。つまり、国会議員と全国民との間の代表・被代表の関係は、政治的関係なのであって法的な拘束・被拘束の関係ではない。

同様に、仮に議員が地域の代表であるという場合、それは議員が地域の選挙民の指図に法的に拘束されるという意味ではなく、政治的代表なのである。被上告人のいうような選挙区の選挙民と議員との関係は、「代表」の関係ではなく「代理」関係である(原審における上告人ら『準備書面(三)』二頁)。

「代表」と「命令的委任」が別であることは、フランス第五共和国憲法の規定から明らかである。すなわちそれは、元老院を、地方公共団体の代表としている(四章二四条三項)が、命令的委任は禁止している(同章二七条一項)のである(甲第五号証)。

フランスの憲法と異なり、わが国の憲法は、国会の衆参両議院の議員について、地域代表とは認めず、全国民の代表と位置づけている。すなわち、政治的意味でも国会議員は地域の代表ではないのである。同様に、都議会議員は、全都民の政治的代表であって、各選挙区の政治的代表ではない。

現憲法制定時に、国務大臣金森徳次郎は、憲法四三条一項と地域代表の関係について「固より地域代表と云う言葉を以て致して居ります選挙は、実は地域代表ではないのであって、選挙の方便として地域的に区切りを付けて国家全体を現す者を選び出すと云うことに過ぎないのであります」(清水伸編著『逐条日本国憲法審議録』第三巻一六〇頁)と説明している。つまり「ひろい地域から数多い議員を選挙する場合には、その区域をいくつかに分けて選挙するようにした方が、候補者をよく理解できますし、選挙を行うのにも便利だから」(埼玉県選挙管理委員会編『選挙資料集』昭和五五年八月、一七二頁)で、その地域の利益代表者を出すためではないのである。

わが国では、国会議員も都道府県議会議員も、自らが全体の代表であるという明確な自覚をもっていないため、地域密着型になり、いわゆる「御用聞き」として競い合うことになって、政治の公平が失われているのである。

都議会議員は全都民の代表であるから、千代田区を単独の選挙区とせず隣接選挙区と合区のうえ議員を選出しても、千代田区に不利益が生じるおそれは何らない。

以上からして、「地域代表としての議員の必要性」を認めた原判決は、代議政治における代表概念を憲法の根本的理解において誤っている。

二、最高裁が設けた議員定数配分の違法・合法の判断尺度は憲法一四条一項に反する点について

従来、最高裁は、立法機関の裁量権を認めつつも、「議員一人当たり人口」の較差をもって「投票価値」の較差と言い、選挙区間にその較差がないことを憲法が求める選挙権の平等要請と捉えてきた。「人口」と「選挙人数」を区別せず、「議員一人当たり人口」較差をもって「投票価値」の較差だとする最高裁の認識それ自体に問題があるが、そうした認識の枠内で見た場合でも、最高裁自身が論理矛盾をおかしている。

最高裁がいう選挙権の平等としての「投票価値」の平等は、統一的で普遍的な価値のはずであり、かつての中選挙区制下の衆議院に関しては、「一人一票」を基本原則としつつも、諸般の事情からそれを若干緩和したおよそ較差三倍をもって合憲・違憲の分岐線とした。

ところが、最高裁は、都道府県議会に関しては、愛知県では五倍を超える議員一人当たり人口較差が合憲で、また香川県ではそれが二倍未満でも違憲となるような尺度を用い(原審における上告人ら準備書面(二)、四〜五頁)、統一的で普遍的な価値のはずの選挙権の平等に地域差をつけてしまった。

それは、最高裁が、第一に、特例選挙区を存置してよい条件として配当基数が0.5を著しく下回らなければよいとする基準を設けたこと、そして第二に、現実の定数配分上生じている選挙区間人口較差が、特例選挙区を含めた場合と含まない場合の両場合において人口比で配分したとき生じる較差を超えなければ合法とする基準を設けたことの結果生じたものだった。

最高裁には、こうした基準を設けることが、選挙権の統一的で普遍的な平等保障に反する不合理な結果を生む可能性をはらんでいるという認識が無かったものと思われる。

以上から、最高裁が設けた上記の二つの尺度は、憲法一四条一項に反する。

原判決は、従来の最高裁判決が用いた論法にひたすら追随するのみで、自らそれを吟味しようとする主体的姿勢に欠けている。

三、長年にわたり人口比配分になっていない品川区選挙区、練馬区選挙区、足立区選挙区への議員定数配分は憲法一四条一項に反する点について

次に、本件訴えのようないわゆる定数訴訟は、これまであたかも選挙人が選挙権の平等侵害から救済を求めて起こす抗告訴訟のごとく扱われてきたが、公選法二〇三条ないし二〇四条を根拠とする訴訟は、本来、都道府県選挙管理委員会の事務の瑕疵ないしその事務執行のもとにある議員定数の配分に関する法律あるいは条例の憲法ないし法律適合性を問う客観訴訟なのである。したがって、本件では、都議会が定めた定数条例での議員定数の配分それ自体に憲法の要請を受けた公選法の規定との整合性が欠けていれば、公選法の当該規定並びに憲法違反ということになる。

公選法一五条八項は、憲法一四条一項の法のもとの平等規定を受け、「各」選挙区への議員数の配分を人口比例で行うべきことを定めた後、但書きで、「特別の事情があるとき」のみ人口比例での議員定数の配分を緩和できる旨定めている。すなわち、公選法の該規定は、「特別の事情」が無ければ、法のもとの平等確保のため、住民の代表確保を人口比例で行うべきことを定めているのである。

ところがその点に関し、全く何らの正当事由も示されないまま品川区選挙区と練馬区選挙区に関しては実に昭和三八年選挙時から人口比定数と一致しない定数配分が継続的に行われ、上告人らが居住する足立区選挙区に関しても昭和四四年選挙時以来今日まで同様な不一致が存在し続けている。

しかしながら、被上告人もそうだが、原裁判所までもが、投票価値の較差の大小を論じることに終始し、上告人らが指摘した品川区選挙区、練馬区選挙区、足立区選挙区への議員定数配分の人口比例原則そのものに対する違反という点に関しては何らの言及、反論も示さなかった。定数配分の逆転現象の捉え方についても同様で、一定の投票価値の較差の範囲内であれば、人口比配分に全く逆行する配分までが正当化されている。

投票価値の較差は結果としての現象であり、事柄の本質は、議員の定数配分が人口比例でなされることである。

各選挙区への議員定数の配分の凹凸是正は、総定数を増減させないまま内的調整で可能である。例えば、定数二過多の品川区選挙区と定数二減少の練馬区選挙区は、両選挙区間の二減二増の相殺でいとも容易にできる。従来、都議会においてそうした凹凸調整を不可とする理由が示されたことは全くないのであって、投票価値の較差以前の問題として、こうした配分自体が公選法一五条八項さらには憲法一四条一項の規定に違反しているのである。

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